今回取り上げるのは、株式会社朝日ネット(以下朝日ネット)です。朝日ネットがどういう企業か、中核事業は何か、財務安定性や成長性に問題はないかについて見ていきたいと思います。
朝日ネットはどんな企業か
会社名 | 株式会社朝日ネット |
証券コード | 3834 |
設立年 | 1990年 |
従業員数 | 200人 (2024年3月31日時点) |
業種 | 情報・通信 |
何をやっている会社か?
朝日ネットはISP(インターネット・サービス・プロバイダ)事業として、個人または法人向けにインターネット接続サービスやインターネット関連サービスを提供している企業です。
以下の3つのビジネスモデルで事業を展開しています。
- ASAHIネット
- V6コネクト
- manaba
ASAHIネット
ISP(インターネットサービスプロバイダ)事業。会員に対して月額固定料金でインターネット接続サービスを提供。
近年はマンション全戸加入プランによる入居時のインターネット備え付けサービスの人気が高く、契約数が伸びている。
V6コネクト
VNE(Virtual Network Enabler)事業。他のISP事業者向けにIPv6インターネットを提供するためのネットワーク設備等をローミングサービスとして提供。
manaba
クラウド型の教育支援サービス。大学におけるレポートの提出や講義資料の提示等をクラウド上で行うことができるサービス。
何で稼いでいる会社か?
ビジネスモデル別の売上高の割合

朝日ネットの売上高の70%以上をASAHIネットサービスが占めています。しかしながら近年は少しずつVNE事業であるV6コネクトの比率が大きくなってきています。
ASAHIネットの接続契約数

売上高の70%を占めるASAHIネットの接続契約数の内訳を接続サービスごとに見てみると、90%以上がFTTH(光ファイバーを使った家庭向けの通信サービス)となっています。そのため、朝日ネットの売上が今後も継続して拡大していくかどうかは、FTTH市場の伸びと大きく関係すると考えられます。
ファンダメンタルズ分析
主なKPI指標
指標 | 実績 | 業界平均 |
---|---|---|
営業利益率 [%] | 16.1 | 8.3 |
自己資本比率 [%] | 87.6 | 64.3 |
流動比率 [%] | 522 | 271 |
ROE [%] | 10.3 | 9.6 |
労働分配率 [%] | 11.7 | 39 |
配当利回り [%] | 3.71 | – |
成長性
売上高と営業利益率

2018年は主に以下の2つの理由によって営業利益率が大きく低下しています。
- ネイティブ方式でのネットワーク構築による償却費・通信費が増加した一方で、サービスの提供が遅れたため
- manabaの売上未達のため
またコロナ禍直後の2021年はネットサービスへの需要増加の影響もあってか、それまでと比べて売上高は大きく伸びています。一方で2022年以降は需要が一段落したためか、売上高の伸びが鈍化しています。営業利益率は依然として高い水準を維持できていますが、今後もこの傾向が続くかどうかは、注視する必要があると思います。
キャッシュフロー

近年はフリーCF(営業CFから投資CFを引いた値)がプラスの値で推移しています。営業活動で得た利益の範囲内で投資を行っており比較的安定的な状態になっていることがわかります。
FTTH市場の成長性
引用元:情報通信統計データベースのデータを元にグラフを作成
総務省が発表している情報通信統計データベースによると、2021年以降のFTTHの契約者数は緩やかな増加傾向にはあるものの、増加率は少しずつ下がってきており2024年3月の増加率は2.1%まで低下しています。おそらく今後もこの傾向は続き、代わりにワイヤレス・モバイル通信の契約者数が伸びていくと考えられます。
そのため朝日ネットが今後も継続して売上高や利益を拡大していくためには、モバイル接続サービスの契約者数を増やすことに注力したほうが良いと考えられます。
競合他社との比較

コロナ禍の2021年以降の売上高の推移を他社と比較すると、朝日ネットは売上高の伸び率が他社と比べて小さいことがわかります。なおGMOインターネットは2024年12月が期末決算のため2024年7月時点ではデータがありません。
安全性
バランスシート

流動資産の内訳

流動比率は500%以上であり、また当座比率も400%を超えていることから、財務基盤は非常に安定しています。
現金と自己資本比率

自己資本比率も80%を超えており、財務安定性は全く問題無いレベルです。
収益性
ROE

2018年は先に述べた通り業績が悪化したためROEも大きく低下していますが、それ以外の年は目標値である10%と近いあるいは上回る水準を維持できています。
生産性
原価率と労働分配率

朝日ネット | 業界平均 | |
---|---|---|
売上高原価率 [%] | 68.9 | 57.6 |
販管費率 [%] | 15.0 | 33.3 |
労働分配率 [%] | 11.7 | 39.0 |
販管費率は15%と業界平均の半分以下であり、また労働分配率は11.7%で業界平均の1/3以下と非常に低い水準に抑えられています。労働分配率に関しては、有価証券報告書には給与手当の値しか記載されておらず、少し低めに見積もっている可能性があります。ただ、もし仮にそうだったとしても、労働分配率が非常に低い水準であることは言えると思います。
販管費率と労働分配率が非常に低いことから朝日ネットの労働生産性が高いという見方ができると思いますが、一方で従業員への還元が低すぎると、従業員の働くモチベーションの低下が起こらないか少し気になります。
株主への還元
配当金
配当方針
有価証券報告書には「安定した配当を継続して実施していくことを基本方針とする」と記載されていましたが、配当性向やDOEの明確な目標値の記載は見当たりませんでした。
当社は、利益配分につきましては、将来の事業展開と経営体質の強化のために必要な内部留保を確保しつつ、安定 した配当を継続して実施していくことを基本方針としております。
引用元:有価証券報告書
一株配当と配当性向

配当金維持の期間が続いていましたが、直近の5年は連続増配を達成できています。配当性向に関しては明確な目標値の記載が見当たりませんでしたが、近年の実績を見ると50%程度を目安としていると考えられます。