この記事では人材サービス業界のビジネスモデルについてまとめています。
なおこの記事に載っている統計データの出典元や一部の図は、下記の3冊の書籍の内容を参考にしています。
人材採用の歴史を振り返りながら、人材業界が直面する課題や未来の展望について論じた本です。人材採用の様々なビジネスモデルについてわかりやすくまとめて書かれており、ビジネスモデルについて知りたい場合はおすすめです。
人材ビジネスの基本的な仕組みや業界の全体像、具体的な業務の流れについて解説した実践的なガイドブックです。
人材業界に興味を持つ人や、業界で働き始めたばかりの人向けに書かれています。図解を多用しており、業界特有の専門用語や複雑なプロセスを分かりやすく説明し、人材ビジネスの仕組みを体系的に学べる内容となっています。
人材ビジネス業界を目指す人や現在業界で働く人を対象に、人材業界の基礎知識、最新トレンド、法律や規制のポイント、今後の展望を網羅的に紹介しています。特に人材サービス事業の業務の内容について詳しく書かれており、これから人材サービス業界で働く人向けの内容になっています。
人材ビジネスが展開するサービス

人材ビジネスが提供するサービスは、労働力確保と人材労務サービスの二つに分けることができます。以下でそれぞれの業務内容について詳しく説明します。
労働力確保

労働力確保のサービスでは、労働力を確保する方法として大きく求人広告、人材紹介、人材派遣の3つに分類することができます。それぞれの求人方法の特徴について簡単に解説します。
求人広告
求人広告は、企業が主に求人広告サイトに広告を出して労働者を探す方法です。求職者は広告の中から自分に合った仕事を見つけて応募し、選考の後に採用される流れになります。
人材紹介
人材紹介は、求職者が人材紹介会社に自分の職歴やスキルを登録します。企業側は人材紹介会社に求人内容を伝えて人材紹介を依頼します。人材紹介会社は求職者との面談等を行い企業のニーズに合うかを検討し、企業へ求職者を紹介します。
人材派遣
人材派遣では、人材派遣会社に登録した労働者が企業に派遣される形になっていて、労働者と企業は直接の雇用契約を結んでいないという特徴があります。
人材紹介と人材派遣のメリット・デメリット
サービス形態 | メリット | デメリット |
---|---|---|
人材紹介 | ・企業側で求職者を集める手間を省ける ・長期雇用が前提 | ・他の採用方法と比べて採用コストが高い ・企業内に採用のノウハウが蓄積されづらい |
人材派遣 | ・企業側での教育コストや採用コストが不要 ・短期間でスポット的に人員を増やせる | ・派遣された人材を拒否できない ・派遣スタッフが継続就業を拒否すれば契約が終了する |
人材労務サービス(アウトソーシング)
人事・労務・経理・総務
人材労務サービスでは、企業内の事務的な作業を外部の企業が請け負います。一例として、1979年にセブンイレブン・ジャパンが野村総合研究所に情報システム部門の業務を委託したことが挙げられます。
市場規模
「労働力確保」と「人事労務サービス」の市場規模
労働力確保の市場規模

人事労務サービスの事業規模

業界全体の売上の推移

矢野経済研究所によると、人材関連ビジネスの主要3業界(人材派遣業、ホワイトカラー職種の人材紹介業、再就職支援業)の市場規模は2019年から堅調に拡大傾向で、2024年度には10兆円を上回る見込になっています。
一方で市場規模の成長率は低下傾向となっており、2024年は6%を下回る水準になる見込みです。
ビジネスモデル
このセクションでは、労働力確保のためのそれぞれのサービス形態についてのビジネスモデルについて説明します。
求人広告

求人広告のビジネスモデルは、求人媒体の広告枠を企業へ提供し、企業から前課金で掲載料を受け取って求人を掲載します。求人を見た求職者が自ら応募し、企業側での面接等の選考プロセスを経て採用する流れになります。
企業にとってのメリットは、掲載料が一定のため大量採用を行う場合は採用単価が安くなり、費用対効果が大きくなります。
一方のデメリットは、応募者の質については事前に吟味することができないことと、全く応募が入らない場合でも課金されてします点が挙げられます。
現在はWeb上の求人サイトがほとんどですが、求人誌や折り込みチラシなどによっても求人広告は行われています。
DBスカウト

ネット求人広告のデメリットである、企業側が求職者を選べない点を解消した求人サービスとして、求職者DB(データベース)スカウトのビジネスモデルがあります。
これは求職者が会員登録しているDBに対して企業が前課金で料金を払い、DBから求人内容に合う人材を検索して、直接スカウトメールを出すことができる仕組みになっています。
このビジネスモデルのデメリットは、企業側で人材を検索してスカウトメールを出さなければならないため、企業の負担が大きくなってしまう点が挙げられます。
人材紹介

求職者DB型のビジネスモデルでは、企業が人材の検索・スカウトを行うため企業側の負担が大きいデメリットがありましたが、このデメリットを解消するために人材探しや絞り込みの作業を外部へアウトソーシングしたビジネスモデルが人材紹介モデルになります。
人材紹介のビジネスモデルでは、求職者は人材紹介会社へ登録し、一方の企業は人材紹介を人材紹介会社へ依頼します。人材紹介会社は双方のニーズのマッチングを行い、求職者を企業へ紹介します。企業での選考プロセスを経て入社決定となった後に、成功報酬を人材紹介会社へ支払うというビジネスモデルになっています。
人材紹介のビジネスモデルでは、料金の支払いが成功報酬型であるため、費用の無駄が発生しにくいというメリットがあります。また先述の通り人材採用に関する企業の負担を少なくできます。
デメリットとしては、人材紹介会社に採用プロセスの一部を依存してしまうため、企業内に採用のノウハウが蓄積されづらいという点が挙げられます。
アグリゲーション型

従来とは異なるビジネスモデルとして、アグリゲーション型サイトを使った人材サービスが注目されています。
アグリゲーション型サイトは、インターネット上の求人情報を収集して一覧表示する検索エンジンの一種です。クローリングという技術を使い、企業のウェブサイトや求人サイトから情報を自動で集約します。一部のプラットフォームでは、企業が直接求人情報を投稿する機能も提供されています。
アグリゲーション型サイトを運営している有名な企業としてIndeedやGoogle for Jobsが挙げられます。中でもIndeedは世界最大級の検索エンジンであり、2012年にリクルートグループに買収され日本でも高い知名度を持っています。
人材派遣

人材派遣事業のビジネスモデルでは、派遣料金から派遣スタッフの給与や社会保険料、そのほかの必要経費を差し引いた額が利益になります。
上の円グラフは日本人材派遣協会による派遣料金の内訳を表したデータです。円グラフの中で、派遣社員の給与と社会保険料、そして有給費用は稼働中の派遣スタッフのみにかかる費用で、これらは売上原価になります。
一方で諸経費の中には、派遣会社の社員の人件費や福利厚生費、教育研修費等が含まれます。これらの費用は、未稼動や待機を含むスタッフ全員にかかる費用なので、販管費に分類されます。
人材派遣事業では、これらの売上原価や販管費を人材派遣会社が負担しているため、売上に対して原価・販管費の割合が大きくなりやすいビジネスモデルです。そのため一般的には利益率は低くなりやすく、上記の円グラフでも利益率は1%程度になっています。